山の健康トラブル 〜いざという時どう対応するか〜
  Part2 脱水症・熱中症・高山病 編
山と健康のコンパス


普段は健康な人でも、登山中に無理をすると体調を崩すことがあります。ここでは主に夏山(無雪期登山)で起こりやすい、初期対応を誤ると危険な疾患を取り上げています。誰にでも起こり得る事ですので、その予防法、対処法をしっかり覚えておきましょう。
①脱水症

 体内の水分が不足した状態が脱水症です。体から失う水分(尿、排便、発汗、呼吸時の蒸発など)の量に対して、補給する水分が少ない状態が続くと起こります。ただし、水だけではなくミネラル分(特に塩分)を汗で失う事でも脱水に繋がりますので、こちらの対応も必要です。

【症状と対処法】
 軽症では喉の渇き、発汗の減少(皮膚の乾き)、尿量の減少など。水分と共に汗で失った塩分を補給できるスポーツドリンクなどを摂取する。
 もう少し悪化すると、だるさ、疲労感、目まい、頭痛、動悸などの症状が現れる。場合によっては足の痙攣(こむら返り)を起こす。スポーツドリンクなどを摂取して症状が落ち着くまで安静とする。可能であれば横になる。
 重症になると意識障害を来す。意識がもうろうとなり、立っていられなくなる。重症化する場合は熱中症も絡んでいることが多いので、涼しい場所に移動して横になる。できるだけスポーツドリンクなどを摂るが、意識障害が重度の場合は飲み込めないので注意が必要である。
 
【予防のために(賢い水分の取り方)】
 暑い日に山を登っていれば汗をかきます。汗はなくても尿はでます。人間の体は定期的な水分の補給を必要としているのです。女性の方などで、トイレの煩わしさから登山中に水分摂取を押さえるという話を聞きますが、一歩間違えると脱水症になりますので注意が必要です。
 人間は体内に余分な水分があると尿として排泄します。逆に足りないと尿の量を減らして水分を保持しようとします。尿が出ないと言うことは水分が不足しているという証拠なのです。理想的な水分摂取量としては、2~4時間の行動で一回くらい排尿する程度ではないかと思います。半日以上も排尿が無いようでは水分不足です。飲み方としては休憩時にがぶ飲みするのではなく、少量をこまめに摂る方が理想的です。喉が渇くとどうしても沢山飲みたくなりますが、その水分が体内で吸収されるまでには時間がかかるので、渇きが癒される訳ではありません。結局は余分な水分としてすぐに排泄されてしまいます。「汗で失った水分+αの量をこまめに摂る」ことで脱水にならず、頻繁に排尿もしないで済むわけです。ですから、涼しい季節に山に登るのと真夏の登山では必要な水分摂取量は違ってきます。「汗をかくから水分を控える」という話を聞くことがありますが、体温が上がった時に普段のように汗をかかないというのは脱水の初期症状です。休憩の関係などで水分を摂る機会が限られてしまう場合などには、行動しながら水分摂取の可能な物もありますので試してみてはいかがでしょう。


②熱中症

 原因、病状により日射病、熱けいれん、熱疲労、熱射病などと呼ばれる。
 登山は野球に次いで2番目に熱中症の発症数が多いスポーツと言われており、全ての登山者はその知識を持っている必要があります。暑い環境で登山を続ければ体温が上昇して熱中症を起こす危険があります。ただ暑いだけで人はすぐに倒れるものではありませんが、疲労、睡眠不足、風邪などの体調不良があるとその危険が高まります。特に、脱水が重なると重症化しやすいので注意が必要です。汗をかくことで人間は体温を調節していますので、暑い日に汗をかかないよう水を控えると熱中症の危険を招くことになります。

【予防】
・強い日差しを浴び続けないよう帽子を被る。
・休憩をマメにとる。その際には、できるだけ日陰になる場所を選ぶ。
・水ではなく塩分の入った飲み物でまめに水分補給をする。
・通気性が良く、速乾性のある衣類を身に着ける。

【症状と対処法】
 疲労感、だるさ、めまい、動悸、頭痛などが現れる。さらに悪化するとこむら返り、痙攣を起こし、最後は意識障害を来す。特に熱射病ではかなりの高体温となり、死亡する事もある。
 日陰の涼しい場所に移動する。無ければツェルトなどを利用しても良いでしょう。意識がしっかりしていればスポーツドリンクなどのミネラルの入ったものを飲ませる。特に多量の発汗で塩分が不足している場合は、食塩を追加しても良い。意識障害のある場合は無理に飲ませると気管に入るおそれがあるので注意する。高体温の場合は、衣服を脱がせて水で濡らしたタオルなどを置き、風を送って冷却を試みる。軽症であれば間もなく回復するが、意識障害が続く場合は救助要請が必要になります。


③高山病

 ヒマラヤのような海外の高い山ばかりではなく、日本の山でも高山病が起こる事はあります。3000メートルクラスの日本アルプスや富士山の上の方になると、地上に比べてかなり気圧が下がります。麓から一気に稜線まで登り、そこで泊まるようなケースでまれに見られるようです。高山病は急激に気圧が下がった影響で、肺などの臓器にむくみを来すために起こります。重症時の対処を誤ると脳浮腫から死亡する事もあります。

【予防】
 体質的に高山病になりやすい人は、時間を掛けて高度を上げる事。稜線ではなく少し下った場所で宿泊することで危険を減らすことができる。睡眠不足や疲労など体調不良もリスクを高める。

【症状と対処法】
 症状としては咳、水気の多い痰があり、痰には薄く血液が混じることがあります。息苦しさがあり、少し動くだけでも息が乱れます。初期症状として頭痛や食欲の低下、便秘などを来すこともあります。
 治療としてはできるだけ速く高度を下げることが原則です。軽症であればゆっくり山を下っていき、途中の山小屋などで休息して回復を待つのもよいでしょう。重症で歩けないような場合はできるだけ速く救助が必要になります。